アカハナワラビ
Botrychium nipponicum Makino
巻頭で説明を忘れたのですが、この図鑑で紹介するのはハナワラビ属Botrychiumの中でもオオハナワラビ亜属subgenus Sceptridiumに属する者たちです。この亜属の特徴はなんといって冬緑性であることでしょう。夏に葉を出し、冬の間に稼いで、春になると地上部が枯れてしまいます。アカハナワラビは真冬に暗赤色に紅葉する美しいハナワラビです。落ち葉に紛れて擬態しているようにも見えます(図2.1)。紅葉する前は、白い絣がはいった灰緑色という微妙な色合いを示します。伊豆大島にはこの種が片親になった美人の雑種がいくつか知られていますので、それらの紹介に先立って登場をおねがいしました。
西田(1959)には、牧野博士がこの種の記載を行った際(Makino 1916)に基準標本を残さなかったため、オオハナワラビの紅変型との混同が起きて何がアカハナワラビなのか混乱していた経緯が述べられています。西田先生は原記載と同じ日時・場所「Prov. MUSASHI: Negishi in Hizaori-mura (T. MAKINO! Jan. 12, 1915)」の標本を科学博物館から1点探し出し、その標本の胞子葉の穂の部分が枯れ落ちている点を確認しました。オオハナワラビの場合は、胞子葉は胞子放出後も元気に直立し続け冬を越すので、この点で異なると言えます。アカハナワラビの胞子葉は11月末には枯れて倒れてしまうらしいです。“アカハナワラビ”とネットで検索するといろんな写真を見る事ができますが、そういう目で見てみると確かに、紅葉した個体は胞子葉が見えなかったり枯れてたり、胞子葉が直立している場合には葉がまだ緑であるのが分かります。赤くて胞子葉をすっと伸びしていたら恰好良いのにと思われた方はご安心ください。そういう姿は後ほど紹介するアカハナとオオハナの雑種であるアカネハナワラビや、アカハナとシチトウの雑種であるアンコハナワラビで見る事ができます。