アンコハナワラビ
Botrychium ×pulchrum (Sahashi) Nakaike
種小名のpulchrumでラテン語辞書を引いたら、“素敵”という意味でした。和名のアンコは餡子ではなく、伊豆大島の娘さんを“あんこ”と呼ぶところからきているのでしょう。この言葉は、都はるみのヒット曲「アンコ椿は恋の花」で有名になりました。アンコハナワラビは、シチトウハナワラビとアカハナワラビの雑種です(Sahashi 1983a)。アカハナの血をひいて赤みを帯びた葉身と、シチトウ由来のしっかりとした胞子葉を持った立ち姿は、赤い前垂れのあんこ衣装をまとった女性のようです(図3.1)。命名者の佐橋先生、想像力ばつぐんです。
片親であるシチトウは大島のいたるところで見つかりますが、アカハナはシチトウより小型で被陰に弱いせいなのか、下草刈りがなされた椿林の林床等に限られている気がします。アンコを見たければ、まずアカハナが多い場所を探すことです。Sahashi (1983b)によれば、胞子形態は異常で、減数分裂時に90個の一価染色体と45個の二価染色体の像が観察されています。合計すると180個の染色体なので、基本数をx = 45とすると4倍体と解釈できます。推定母種であるアカハナは2倍体(n = 45; Nishida et al. 1964, Sahashi 1979b)で、シチトウは6倍体(n = 135, Sahashi 1979b)ですので、雑種に予想される通りの倍数性です(2/2 + 6/2 = 4)。LAPという酵素の多型解析の結果(図3.2)も、この親の組み合わせを支持します。真ん中のレーンのアンコは、右隣のシチトウの二本のバンドに左隣のアカのバンドを足した三本バンドです。
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