ハナワラビの栄養葉と胞子葉は、地下から直立する一本の軸が分岐して生じます。これを共通柄と言いますが、このような立体構造の葉は他のシダでは見られません。また、生活史の面でも変わり者です。シダ植物は胞子体と配偶体が独立生活します。高校の教科書の載っている通り、シダの配偶体は緑のハート型で、光合成を行う独立栄養です。ところが興味深い事に、ハナワラビ類の配偶体は塊状で地中で生育します。地中なので光合成できず、生きるために必要な栄養を共生する菌に依存する菌従属栄養生物となっています。受精して胞子体になると自力でも稼ぎ始めるわけです。図0.2は非常に小さなオオハナワラビ(たぶん)の胞子体を堀上げてみたら、まだ配偶体が残っていたという写真です。毛だらけの配偶体の左側が地上方向です。配偶体の“毛”は仮根でしょうか?西田(1954)によれば、受精後に最初に葉をだしてから更に1~2年は配偶体が残存するようです。普通の緑のハート型のシダの配偶体は、胞子体を付けるとすぐに色が抜けて枯れてしまうのと対照的です。なぜなのか興味をそそられます。
追記:ハナワラビ類の胞子体と配偶体は共にグロムス門の菌と共生し、アーバスキュラー菌根(AM)を形成します。ハナワラビ類の配偶体は菌従属栄養だと述べましたが、AM菌から炭水化物を得ている訳です。Winther and Friedman (2007)は、アメリカ産のヒメハナワラビ亜属(Botrychium subgenus Botrychium)二種のAM菌を解析し、隣り合った胞子体と配偶体で同じAM菌を共有している事を示しました。つまり独立栄養の胞子体が隣り合った(つまり自分の子孫かもしれない)地中の配偶体を、菌糸を通じて養っている可能性を示しました。当研究室の加藤君の研究により、日本産のオオハナワラビでも同じ場所では胞子体と配偶体で同じAM菌を共有していることが分かりました。なぜハナワラビ類の配偶体は胞子体を形成しても残るのか謎でしたが、もしかしたら配偶体から胞子体の根への菌の受け渡しが、この残存期に確実に行われるのかもしれません。 |
このハナワラビ類の種間雑種を最初に見つけたのは元東邦大学教授の佐橋紀男先生です(Sahashi 1979a)。配偶体が地中生なのに、どうやって他殖が起こるのでしょうか?地中のことなのでいまだに謎です。伊豆大島は、この島に固有のミドリハナワラビが生育するなど、このグループの種多様性が高いだけでなく、生育密度も高く、ハナワラビの楽園と言っていい場所です(最近は、外来生物のキョンが食い散らかして、密度がすごく減ったと聞いています。心配です。)。最初に佐橋先生に連れられて伊豆大島に行って以来、このグループが大好きになりました。図0.1には3個体写っていますが、右側がオオハナワラビBotrychium japonicum、左側がシチトウハナワラビBotrychium atrovirens、そして真ん中がゴジンカハナワラビBotrychium ×silvicolaといってオオハナとシチトウの雑種です。彼らが美しいと思われた方、この微妙な形態の違いに興味をそそられた方は、この図鑑を読みすすめて下さい。